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会計監査

経営者による会計不正について考えてみた事

監査法人勤務時代には周りで経営者による会計不正を見かけるケースはありましたが、自分自身が担当する会社で見かけたことはありませんでした。(いわゆる経費の私的使用はみかけることはありましたが)

ところがここ最近3月に上場会社の不正に関連した独立調査委員会の補助者業務の依頼(以下ではケース1)や、4月に実施したデューデリジェンス業務(以下ではケース2)

の中で、経営者による会計不正に関与するケースが続きました。

今回のケースを不正のトライアングルの観点から若干の推測部分も含め考えてみたところ、ある類似点があることに気づきました。

(ケース1)子会社における売上の過大計上

①不正の実行者 

子会社の社長であり親会社の取締役(実際の実行者は子会社の経理部長でしたが、こちらの方には明確な動機はなく、指示に従ったもの)

②不正の動機

オーナー一族が重要な役職者を占める中で、当該不正の実行者は唯一非オーナー家の出身であり、自らが代表を務める子会社の赤字を隠すないしは利益を水増しし、報告することで自らの地位を維持すること

また、ストックオプションの付与もあり、業績を良く見せかけることに対するインセンティブもあった。

③不正の機会

子会社の社長は当該子会社設立当初から業務に関与する一方で、親会社の役員や管理部門(経理や内部監査室)は必ずしも、当該子会社の業務に精通していなかった。

子会社の経理部では経理部長のみが携わる売掛金計上のプロセスがあり、また、経理部長は長年異動がないまま業務を続けていた。

④不正の正当化

売上・利益を重視し、コンプライアンス意識の低い社風の中で、オーナー家の考え方に沿った決算を組むことが重要だと考えていた。

(ケース2)架空の棚卸資産の計上

①不正の実行者

社長(オーナーが体調不良を契機に同業種の会社経営経験者に経営を任せた。雇われ社長)

②不正の動機

雇われ社長であり、当該会社は買収間もない会社であったこともあり、経営がうまくいっているとみせかける必要があった。

③不正の機会

オーナーを含め会社の業務の理解が乏しく会社の実態把握ができていなかった。経理体制も脆弱であり、社長の意向に従った処理を求められれば断ることができない状況にあった。

④不正の正当化

オーナーの体調不良を契機に社長を引き継いでおり、経営が安定しているように見せかけることが重要だと考えていた。

背景はもっと複雑なのでごくごく簡単にまとめると上記のような整理になるのですが、ポイントとしては以下の類似点が認められることです。

①非オーナー家の方が社長でオーナー家の人は事業に必ずしも精通していない

②利益を出していないと立場を失う可能性がある

③内部統制やコンプライアンスを重視する体制ないしは社風になっていない。

このような会社は中規模の中小企業ではまま当てはまるケースも想像されるところであり、昨今はシナジー効果を狙って必ずしも事業に必ずしも精通していない会社をMAで取得、経営は既存の経営者に任せるということもあるのではないかと思います。

こういったケースにおいては少なくとも親会社からお目付け役を派遣して経営を監視する、親会社に情報を共有するなど、最低限のグループガバナンスを働かせておかないと不正リスクが高まるということを改めて感じました。