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会計監査

非財務情報の開示と監基法720

 改訂コーポレートガバナンス・コード(以下CGC)において気候変動リスクに関する開示がプライム市場に上場する企業に求められることになっていますが、有価証券報告書において気候変動リスクへに関する開示を義務付けることが検討されているとの報道を先月新聞紙上で見受けました。

 改訂CGCにおいては プライム市場上場企業においてTCFD気候関連財務情報開示タスクフォース)またはそれと同等の国際的枠組みに基づく気候変動開示を要請されていますが、当該記載を有価証券報告書にこれらの開示をそのまま取り込む場合には、開示基準を含めてまだ実務的な取り扱いや手法がそれほど定まっていない内容が有価証券報告書に開示されることになります。
 仮に情報開示された内容に誤りがある場合や企業において適切な判断がなされなかった場合、投資家の投資判断をミスリードするリスクもあり、企業にとっては開示すること自体が大きなリスクにもならないでしょうか。(有価証券報告書の虚偽記載とされるケースも最悪想定されます)

 また、監査基準委員会報告書720の改訂により監査人においては、新たに以下の事項が監査において求められることとなっており、従来は経理の状況以降の財務諸表及び注記についてを監査対象としていたものが、非財務情報の記載についても一定程度の監査対応が必要となっています。
・その他の記載内容と監査人が監査の過程で得た知識の間に重要な相違があるかどうかを検討することが求められることとなった。
・財務諸表又は監査人が監査の過程で得た知識に関連しないその他の記載内容について、重要な誤り(適切な理解のための必要な情報の省略や曖昧にしている場合を含む。)があると思われる兆候に注意を払うことが求められることとなった。
・監査報告書に、(監査意見を表明しない場合を除き)見出しを付した独立した区分を常に設け、その他の記載内容に関する報告を行う。その他の記載内容に関する経営者、監査役等及び監査人の責任や、監査人の作業の結果等が記載されることとなった。

 実際に気候変動リスクの開示が有価証券報告書や事業報告、企業が別途作成する英文財務諸表の中で詳細に記載されるような場合においては、重要な誤りがあるかないかの判断自体に財務諸表監査とはまた異なる専門性を求められることにもなりかねず、監査人の負担自体も大きくなることが危惧されます。

 気候変動リスクに関する開示を行うこと自体は温暖化がグローバルで進行している現状においては企業の中長期における企業価値向上につながるものであり、積極的に推進していくべきものと考えますが、気候変動リスクに関する基準や手法がまだ確立されていない段階において有価証券報告書への記載を要求し、また、監査対応を要するような状況を作ることには個人的には賛同しかねます。
 こちらについても昨日つぶやいた四半期開示の見直し同様、今後の議論の動向に注目ですね。